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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

さては、良斎のわなにはまったのかな。ふたりはどちらからともなく駆けよって、手を取り合った。

すると、そのとき、どこからともなく変な声が聞こえてきた。

「きのどくだが、速水はここには来ていない。ちょっとあれの名を使って、きみたちをおびき出したんだよ」

それは電気を通した声、つまりラウドスピーカーの声であった。昌吉は思わず天井を見まわした。ああ、あれだ。天井の一方のすみに、細かい金網が張ってある。声はその拡声器から漏れてくるのだ。

「ぼくたちは速水さんに用事があってやって来たんだ。ここに速水さんがいないとすれば、一刻もこんなへやにいる必要はない。早く帰らせてくれたまえ」

昌吉は、むだとは知りながら、ともかくも叫ばないではいられなかった。すると、その声が相手に聞こえたとみえて、またラウドスピーカーから、ぶきみなしわがれ声が漏れてくる。

「そっちに用がなくても、こっちにだいじな用があるんだ。苦労をしておびきよせたきみたちを、帰してたまるものか」

「ぼくたちになんの用事があるんだ。そして、きみはいったい何者だ」

こちらはもう震え上がっているのだけれど、虚勢を張ってどなり返す。