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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

恐ろしい。人殺しの専門家が、おれを殺す準備に忙殺されているのだ。ドアの外へレンガを積んで、コンクリートでかためているのだ。あれが完成したら、このへやは完全に密閉される。空気が通わなくなる。おれは飢え死にかと思っていたが、窒息だった。人殺しのやつは、おれを窒息させるつもりなんだ。

ああ、そうだったのか。レンガ積みは、そういう意味だったのか。昌吉は急いでドアの前に行って、耳をすました。まだ聞こえない。レンガ積みの作業は、まだはじまっていない。だが、やがてはじまるのだ。そして、ふたりは、この先客と同じ運命におちいるのだ。

そうとわかると、もっと落書きが見たかった。まだ書いてあるにちがいない。また壁紙破りをつづけた。美与子も、さっきの落書きを読んでいた。そして、昌吉といっしょになって、壁紙を破りはじめた。のりがよくついていないので、はがすのはわけもなかった。

「ここ、ここ!」

美与子が指さすところを見ると、また別の文字があった。

ガラス窓から、あいつがのぞいた。今までは人殺し会社のやつだったが、レンガ積みが終わって、いよいよおれの最期が近づくと、とうとう、あいつが顔を出した。