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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

そして、犬のようにあどけなく首をかしげて、じっとこちらを見た。

「うん、聞くよ。話してごらん」

男は大きな目を細くして、赤い舌でペロペロとくちびるをなめた。

「若い衆、おれをなんだと思うね……人外さ。それはわかってらあ。だが、おれの前身をなんだと思うね」

速水は人間観察に慣れていたので、この質問に答えるのはわけもなかった。

「軍人だろう。それも将校だ。大尉かね」

「えらい。おまえさん、人相見かね。そのとおりだよ。おれは陛下の忠勇なる陸軍大尉だった。生涯、軍に身をささげるつもりだった」

そういって、またポロポロと涙をこぼした。この五十男は、兵卒から経上がった職業軍人らしかった。そういう体臭が感じられた。

「りっぱな軍人だった。金鵄勲章もいただいとる。感謝状を何本ももらっとる。北支の戦場では、元野部隊長閣下が、親しくおれの手を取って『えらいやつだ』と涙をこぼして感謝された。おれは百三十人の生き残りの部下とともに、五十六高地の孤塁を守って、三千の敵を追いちらし、後続部隊との連絡を全うした。それは大作戦の成否にかかわる重大地点だった。おれの金鵄勲章は、その功績によるものだ」