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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

鉄の円筒が水上二フィートほどで静止すると、その上部の円形のふたが静かにひらき、その中から、鉄ばしごがスルスルとのびて、池の岸に掛けられた。

「じゃあ、どうか」

黒ビロードの男がささやくようにいって、まっさきにそのはしごを渡り、円筒の中へもぐりこんでいった。

「あの中へはいるんだ。これが別世界への入り口だよ。別世界へはいってしまえば、もうこの世とは縁が切れるのだ。絶対の安全地帯だよ。さあ、おれについてくるんだ」

影男は須原と運転手にそういって、はしごを渡りはじめた。ふたりはそのあとにつづく。

鉄の円筒の内側には、縦のはしごがついていた。ひとりずつそれを伝い降りて、円筒の底に立った。狭い場所なので、からだをくっつけ合っている。

影男は経験ずみだが、須原と運転手ははじめてなので、まっくらな円筒の底にとじこめられ、これからどうなることかと、異様の不安に襲われないではいられなかった。

どこかでモーターの音がして、円筒がゆらゆらと揺れたかと思うと、なんだか目がくらむような気がした。ちょうどエレベーターの下降する感じだった。

円筒が池の底へ静かに沈下しているのだ。