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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
それは五人の裸女がからだを異様に組み合わせ、ねじり合わせて、一匹のなまめかしい巨獣となったものであった。
洞窟にはいってから二時間あまり、黒いメフィストは時を忘れ、追われている身を忘れ、地上のいっさいの煩いを忘れ、艶樹の森と、地底世界をどよもす音楽と、歌声と、踊り狂う五面十脚の美しい怪獣とに、果てしもなく酔いしれていたが、ふと気がつくと、またしても、ただならぬ奇怪事が起こっていた。
八方の鏡に映る黒ビロードの人影が、刻一刻、その数を増していくかに感じられた。はじめのうちはだれも気づかなかったが、こうも人数がふえてきては、もう気づかぬわけにはいかぬ。影男がまず立ちどまり、つづいて須原が立ちどまった。
「これはどうしたことだ。おれの目が酔っぱらっているのか。それとも、またしても何か地底の魔術がはじまったのか」
「わしの目もどうかしている。鏡の影が倍になった。いや、三倍、四倍になった。見ろ、木の幹のすきまというすきまは黒い人間でいっぱいじゃないか。おかしいぞ。ほら、わしはいま手をあげた。だが、手をあげないやつがいっぱいいる。わしらの影じゃない。別の人間がはいってきたのか?」