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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「そうですよ。でも、ご見物衆はあの隠し戸からはいるまでに気を失うのです。気を失ったところを、そっと運んでおいて、パッと目をひらくと、そこにまったく別の世界があるというのが最も効果的ですからね。それには、わたしがくふうした麻酔ガスを用います。艶樹の森をじゅうぶん観賞なさったころに、美しい魔女が、見物衆にまといつきながら、パイプのネジをひらいて、その鼻先に麻酔ガスを吹きかけるのです。

ですから、あのおふたりが、正気のまま鏡の隠し戸をひらいて別の世界へはいられたとすれば、せっかくの趣向がぶちこわしですよ。それでは、二つの世界が連続してしまいます」

ちょびひげは、捕われの身でも、おしゃべりのくせはやまなかった。

「きみはさっき、その別の世界は、この世の果てだといったね。そこはどんなけしきなのだね」

「まったくのこの世の果てですよ。荒涼たる岩ばかりの無限の大渓谷です。地球の果てです」

「ここには、その二つの世界のほかに、まだ何かあるんじゃないか」

「ありません。二つの世界で、わたしの地底王国はいっぱいですよ」

「で、そこから外への抜け道はないだろうね」

「あるものですか。