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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

この秘密は、支配人とやせ型の男のほかは、だれも知らなかった。主人はホテルに住んでいないし、雇い人たちはまだ真相を看破していなかった。ここは表向きは温泉マークなんかではなく、もっと高級な静かなホテルなのだが、内密は、特定の富裕な顧客に秘密のへやを提供して、不当の利益をむさぼっていた。そういうホテルのことだから、雇い人たちも、たとえ秘密めいた工事が行なわれても、別に怪しむこともなかったのである。この不思議な仕掛けの押し入れの戸には、やせ型の男と支配人だけが持っているカギでなければ、けっして開かないような精巧な隠し錠がついていた。

そこからのぞくガラス窓の向こう側の光景は、狂人の幻想めいて、異様をきわめていた。それは十畳ぐらいの鏡のへやで、四方の壁と天井とがすっかり鏡張りになり、床にはまっかなじゅうたんが敷きつめられ、そのまんなかにはでな模様の日本のふとんが敷いてあった。そして、そのふとんの上で、ギョッとするような異様な動作が演じられていたのである。

かっぷくのよいがんじょうなからだの五十男が、まっぱだかで、そのふとんの上にエビのようにからだを曲げてうずくまっていた。