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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

朱色がだんだんあせていくと、空は真珠のような乳色に変わった。谷底までも、ほのかにしらんできた。そして、それが、いつ移るともなく、水色から濃紺に変じていって、一点の雲もない紺碧の空となった。

ほのかに風の渡る音が聞こえてきた。そして、その風に送られるように、裂けめの一方から、桃色がかった不思議な形の白い雲が現われ、静かに裂けめの上を流れていく。

「アッ、あれは雲じゃない。美しいはだかの女だ。数人の女たちが、手を組み、足を組んで、一団の白い雲となって、横ざまに流れているのだ」

「羽衣をぬいだ天女のむれだ。女神の一団が天空を漂っているのだ」

女人の雲は、漂いながら、たちまちにしてその色彩を変えていった。桃色となり、オレンジとなり、草色となり、紫となり、青となり、赤となり、あるいは半面は緑、半面は臙脂の異様な色彩となり、虹の五色に変化した。

その女人雲は、動くと見えて動かなかった。いつまでも岩の裂けめの、はるかの空に漂っていた。

「何か巧みなくふうで、下から見えぬように、ロープかなんかでつっているのだな」

影男はちらっと現実的なことを考えた。

紺碧の空が、ドス黒く曇ってきた。