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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

やがて、「白」はじゅうたんのまんなかに、ぐったりと、あおむけに倒れていた。全裸を衆目にさらして、恥もなく倒れていた。「黒」はその足もとに、疲労という彫像のように、うずくまっていた。

戦いは終わったかと見えた。見物たちも一瞬鳴りをひそめて、哀れな二つの肉団に見入った。静寂があたりを占めた。

このとき、思いもよらぬ異変が起こった。

「白」が血みどろのからだで、ふらふらと立ちあがったのだ。それは残虐な化けもののように見えた。かれは立ちあがると、見物たちのあいだを、よろめきながら、ドアのほうへ歩いていった。ドアを通りすぎ、暗い廊下へ姿を消していった。

「黒」は視力の弱った目で、その後ろ姿を見やり、自分もものうげに立ちあがった。

「白」は戦い敗れて逃げ出したのであろうか。あとに残った「黒」が勝者なのであろうか。

それは「アッ」と思うまのできごとであった。ドアの外の廊下のほうから、サーッと一陣の風が吹きつけるように感じられた。そして、そのドアから、赤いものが、鉄砲玉のように飛び出してきた。それは全身血まみれの「白」であった。しかし、その形は人間としては目に映らなかった。