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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「なんという名で、どこに住んでいるのです」

「小林昌二というのです。九州の出身ですが、両親とも死んでしまって、東京にはひとりの身寄りもない独身の青年です。浅草の向こうの山谷の旭屋という簡易旅館に、仲間といっしょに泊まっているのだといっていました」

「もうひとりの白いほうの青年も艶歌師ですか」

「いいえ、ふたりはお互いにまったく知らないのです。あの青年は、銀座に出ているサンドイッチマンです。張り子の顔をかぶって、プラカードを持って歩いているのを、あたしの友だちが喫茶店に誘いこんで話をつけたのです。これも即座に承知しました。井上というのです。名のほうはちょっと忘れました。身の上も詳しいことは知りません。でも、それは本人にきけばわかることですわ」

「あなたすみにおけませんわね。あんな魅力のある青年をふたりも手に入れるなんて。いつも、ああいうのを物色して歩いていらっしゃるのでしょう」

Eの咲子は、こんな際にも余裕しゃくしゃくたるものであった。団長も二宮夫人も、ますますおどろきを深くした。あのかわいらしい琴平咲子に、今夜は何かの精がのりうつっているのではないかと疑われるほどであった。