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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

きみ、なにか話してごらん」

すると、小林とそっくりの若者は、つかつかと二宮夫人に近づいて、ニヤリと笑った。

「奥さん、浅草のバーではじめてお目にかかったとき、ぼくは何を歌いましたっけ?」

中音の東京弁に九州なまりが軽微に加味されていた。二宮夫人はそれを聞くと、思わず手を打って笑いだした。

「まあ、そっくりよ。聞きもしないで、どうしてそんなにまねられるのでしょう。すばらしい才能だわ」

「いえ、まぐれ当たりですよ。ぼくの友人に九州出の男がいるので、その口調をまねてみたのですよ」

その言い方がまた、小林青年に実によく似ているのであった。

「この変装は、おふたりの前で合格しましたね」影男が今後の計画を話しはじめた。「この男は今からすぐ、小林青年として、山谷の旭屋という簡易旅館へ帰るのです。今は十二時ですから、自動車をとばしていけば、だいじょうぶ旅館はまだ起きています。それに、小林の仲間の艶歌師たちは、おそらくまだ帰っていますまい。あの連中の仕事は、一時すぎまでもつづくのですからね。それから一杯やって、帰るのは二時三時でしょう。

この男は、旭屋の番頭に声をかけて、たしかに帰った証拠を残すのです。