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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
どこから取り出したのか、手綱代わりの同じだんだら染めのひもが男の口にくわえさせられ、その両端を持って、ハイシイドウドウと、お馬の曲乗りがはじまった。百千のはだか馬と、赤い縞の女騎手とが縦横にはせまわった。せつなせつなに、例のむちが、ときに空を、ときに男の毛むくじゃらの大きなおしりを、ピシリ、ピシリと打ち、おしりにはまっかな毛糸の網模様ができていった。天井と四方の鏡は、この醜いけだものと、美しい騎手とを、あらゆる角度から、狂気のまぼろしのように、目もくらむ無数の映像として映し出した。
五十男の雄獅子ジャンゴは、全身にタラタラ汗を流しながら、十畳のへやの中を、グルグルはいまわった。
「もっと早く、もっと早く!」
そして、ピューッとむちが……だんだら染めの騎手のかかとが、男のダブダブの太鼓腹に角を入れ、締めつけた。
男はゼイゼイ息をはずませながら、まっかに充血した顔からポトポト汗をたらして、全力をふりしぼって、死にもの狂いにはいまわった。恐ろしい速さで、ひざをすりむきながら、その血がじゅうたんをぬらすほども走りまわった。
奇怪な馬が魔法鏡の前を通るたびに、ギョッとする大映しになって、のぞき見する男を眩惑させた。