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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

こうすれば、こんな大きな岩が動くという暗示を受けて、おもしろがってやってみたのにすぎません。それを教えたのは、どこから来て、どこへ行ったとも知れぬ旅の男です。しかも、少しも悪意はなかったように見えたのです。ですから、この事件は犯罪にはなりませんでした」

「おもしろい。ぼくもそういう小説を書いたことがある」

「そうですよ。そのあなたの小説から思いついたのですよ」

「え、ぼくの小説から?」

「だから、愛読者だといったじゃありませんか。普通の愛読者じゃないというのは、ここのことですよ」

須原と名のる男は、そういってニヤリと笑ったが、さらに話をつづける。

「そのほかの五つの場合も、それぞれにくふうをこらしました。海水を洗面器に入れて、顔をその中へ押しつけて殺し、死体をその海水をとった海へ投げこんで、溺死を装わせるとか、なぐり殺した死体を自動車にのせて峠道をのぼり、がけのそばでこちらは運転台から飛びおり、谷底へ転落させて、死んだ男が運転をあやまったように見せかけるとか、どれもこれも創意のあるくふうをこらしたのです。いわば、芸術的殺人ですよ。われわれは芸術家をもって任じています。