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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

千軍万馬の春泥にも、その目つきは薄気味わるかった。須原は話をつづける。

「死体をほうり出しておいても安全な場合もありますが、そうでない場合も多いのです。そこで、これは将来の話ですが、必要なときにはそのあなたの古井戸つきの地所を利用させてもらいたいのですよ。土地に対しては時価の十倍をお払いします」

「それは、ぼくがそういう土地を持ってればという仮定で、承諾しておきましょう。要するに、ぼくとしてはアイディアだけを出資すればいいのですか」

「そうです、そうです。出資とはうまいことをおっしゃった。そのとおりです。命まで出資してくださいとは申しません。あなたは取締役ではないのですからね」

「で、顧問料は?」

「奮発します。四人で山分けです。つまり、会社の全収入の二十五パーセントですね。配当はあなたも取締役なみというわけです」

「で、もしぼくが不承知だといったら?」

「まさか殺しゃしませんよ。秘密を漏らしたら消してしまうというのは、契約を取り結んでからです。それまではお互いに自由ですよ。もし、あなたが今夜の話をその筋に告げるようなことがあっても、ぼくは平気です。今夜話したことは、全部荒唐無稽の作り話で、小説家佐川春泥のごきげんをとりむすんだばかりだと答えます。