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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

そして、けっきょくX氏はわれわれの依頼人となったのです。報酬は五百万円、ほかに実費は百万でも二百万でも支出するという条件です。

しかし、なかなか注文がむずかしい。自分は絶対に安全な方法で……自分が手をくだすのでもなく、その場にいるのでもなく、しかも女の殺されるところを見たいというのです。ぼくらはいろいろ考えてみたが、どうも名案がありません。そこで、あなたに顧問就任の第一着手として、ひとつ知恵を貸していただきたいのですよ」

空はまっさおに澄んでいた。すぐ頭の上を一台の飛行機が飛んでいく。銀色の機体がキラキラと光って見える。ふたりの乗っている箱は、巨大な観覧車の輪の頂上に達していた。富士山の雄大な姿もくっきりと見えている。この大空での殺人の話は、何かおとぎばなしめいた架空なものに感じられた。

「そのX氏は、どこに住んでいるのです」

「世田谷の高台の広壮な邸宅です」

「高台ですね」

「見はらしのいい高台です」

「二階建てでしょうね」

「そうです」

「そこの窓から見えるところにあき地がありますか」

「あき地だらけですよ。あの辺はまだ畑が多いのです」

「その二階から見えるあき地……なるべくX氏の家から遠いほうがいいのですが……そういうあき地を百坪か二百坪、手に入れることはできませんか。