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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

公一兄さんが殺された時刻には、女は全部家にいました。男は全部家にいませんでした」

「そう、そう。私もそのことは忘れませんよ。男の方には、言い合したように、揃ってアリバイがありません。アリバイに関する限り、どなたも容疑者の一人ですよ。安彦兄さんは右手のオヤユビに怪我をして戻られたそうですね」

美津子はいぶかしそうな顔をした。

「そんなことあったかしら、手に怪我をしていたのは、重吉さん久七さんの親子ですわ」

「ホホウ。どんな怪我ですか」

「木を伐って怪我をしたのです。不審の怪我ではなかったと思います」

「そのほかにお気づきのことはありませんでしたか」

「ほかに変ったことは記憶しておりません」

美津子はキッパリ答えた。

「どうも退院早々わずらわしいことをお訊きして、すみませんでした。もうちょッと、二三お訊きすることを許して下さい。重吉のところへ、朝鮮人が訪ねてくることはありませんでしたか」

「朝鮮人? さア、重吉さんは朝鮮にいたことがあるそうですから、そんなお友達がいるかも知れませんが、私は見たことがございません」

「スミ子がニンシンしていることを御存じですか」

「薄々、そうではないかと思っていました」