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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

警察医は大きなカバンをひッかき廻して、注射器とブドー糖を探しだして、五十プロを一本うった。この人は著名な開業医だが、警察医を趣味でやってる変り者で、深夜の事件も一向に厭わず、嬉々として仕事をたのしむ様子であった。由子の処置を終って、愈々大矢捜査主任がフトンをはいで、倉田由之をだき起した。

「倉田さん」

「ナニ」

由之は、目をあけた。あたりを見廻して、警官にとりかこまれているのを、鋭い視線でたしかめた。

「まア、よい。話は朝にしてくれたまえ。朝までグッスリ、ねむらせておいてもらいたい」

由之の口からアルコールの匂いがプンプンした。

「倉田さん、あなたは催眠薬をのんだのを覚えていますか」

「ワシは催眠薬などは用いたことがない。ねむる薬は酒だけでタクサンだね」

「ところが催眠薬をのんでいるのですよ。誰かに飲まされているのです。さもなければ、あなたのような武術家が、こんなにダラシなく眠たがる筈がないでしょう。そんな気が致しませんか」

「なるほど。そういえば、ねむすぎるようです」

由之はまだ無自覚なのかも知れなかった。然し、ともかく、理性がはたらきはじめたようであった。