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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

「ワシは五合ほどの定量をのんだゞけだが、こう、ねむたいのは、まるで、一升以上の度を超した時のようだ」

「ちょッと診察させていたゞきましょう」

「君たちは、ワシを診察するために来たワケではなかろう」

由之はちょッと凄みのある気勢を示した。大矢捜査主任は正面へまわってニコニコと顔を見せて、

「倉田さん。しばらくですね。あなたは、自宅に殺人事件の起ったことを、まだ御存知ないようですな」

「殺人?」

由之は驚いて上体を硬直させた。

「左様。隣室で滝沢夫人が射殺されておりますし、復員した安彦氏も自室で絞殺されております。そのうえ、美津子さん、由子さん、あなたは、いずれも催眠薬でもりつぶされているのです」

由之は、しばらく、口をつぐんでいた。硬直した彼の表情がだん/\冷静にもどった。そうすると、彼の眼がまた、眠たさに澱んできた。

「とにかく、ねむらせて下さい。大矢さん。ワシはねむらなければ、どうにもならない」

「えゝ、もう朝まではお邪魔いたしませんから、ともかく、診察をうけて下さい」

由之は、さからわなかった。医師はこれにもブドー糖を注射した。

「熟睡すれば、治るでしょう。