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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

白い腕を、天井の銀洋燈へ伸ばした。――そして彼の顔へ眸を凝らしながら、

「さようなら……」

いう一瞬に、燈火は消えた。

同時に、短銃の音が、轟然と床を裂くように響いた。扉は大勢の巡査の手で乱打されていた。

扉の外れた弾みに、無数の足がなだれ込んだ。真っ暗な室内の闇に、人々は一瞬、深い沼へ向ったように足もとを竦めたが、誰かが、蝋燭を持って駈け込んで来た。洋燈もついた。

銀洋燈の白い光の下に、短銃を握ったお松の死骸が、元の小娘に回ったように、美しく死んでいた。

「…………」

旗岡巡査の姿は、やはり前の位置に、壁を背にして、憮然と腕組みしているのが洋燈の光に見出されたが、誰一人、その姿を顧みる者などはなかった。

大勢の同僚の影が、たちまち、お松の死骸を囲んで、真っ黒な輪の中に蔽い隠してしまうと、旗岡巡査は、悄然とその部屋から出て行った。

それから十分間ほど後には、彼はまた、居留地十四番館の路傍へ戻り、黙然と、前のように見張に立っていた。