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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

「羨ましいなあ。だが、おめえのためには、欣ばなければならないが」

ある者は、涙をながし、ある者は、猿の手を撫でたり、改めて顔を見たりした。

翌朝。役人が、猿を呼び出しに来た。すると牢内は総立ちになって、猿に名残を惜しみ、猿の手を容易に離さなかった。

「まだ早いよ。わたしはもう一遍、牢内へ帰って来るよ。わしばかり幸福になっちゃ済まないからなあ。兄弟同様に暮したお前方にも、欣びを頒けてやるよ」

そういって出ていったが、おそらく猿はもう帰るまい――と、猿を失ったそれからの半日ばかりは、墓場のように滅入って、誰ひとり口をきく者もなかった。

だが、猿はまた、帰って来た。そして蜘蛛六にいった。

「お前さんは明日放免されるよ。お前さんは善人だ。二度とここへ来るじゃないぞ」

蜘蛛六は、嘘をいわれたような顔して、本気で聞かなかった。けれど半分は本当かなと思ったのだろう、一晩中、身をうごかして、眠れなかった様子だった。

猿のことばは、嘘でなかった。蜘蛛六は翌日、放免になった。狂気した蜘蛛六は、皆へ挨拶するのも忘れて、飛び出して行ったきりになった。

それから、二、三人の者に、放免を予言した。