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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

一見澄みきった深い淵のような気質と思う。いや深いか浅いかすら覗かせない所があった。蒼黒い深淵のなかには、どんなぬしが棲んでいるか、凡慮には測り知ることができなかった。

愛宕山の連歌の会では、紹巴の次韻をうけて、

時は今天が下知る五月哉

と、詠まれたそうで、後では皆が、すでにその時の会には、光秀様の胸の深淵に、恐ろしいぬしが叛逆の口を怒らせていたのじゃと、是々非々、噂し合ったが、それもこれも、及ばぬ後の事でしかない。

それから、亀山城へお帰りになった六月朔日の晩、御主人には、遽にお従兄弟の左馬之介光春様を、お召になった。

お会いになる前に、御主人には、いつになく硬ばった顔いろで、

「孫平治。――寄れ、近う」

と、わしを側へ引かれ、

「光春とはなしがある。その間、何人も寄せてはならぬぞ。よう見張っておれ」

わしは意外に思った。

例のない事だ。日常、礼儀作法のやかましいお方が、いかにお従兄弟の仲とはいえ、蚊帳の中にはいって、しきりと、密談遊ばしているのだった。

そのくせ。

二、三度、激越なるお声がもれた。光春様のお声も、感情にふるえておいでになった。わしは、辺りへ近づく人間を見張るより、御帳の裡のおはなしに全神経を奪られてしまった。