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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

それだけに、わしは身の恐ろしさに顫く。

わしは、持宝院の一室に、ぺたっと、坐ったきりでいた。決して勝手に立たなかった。小用へ行くにも、次の間へ断って行った。次の間には、片桐助作という若い侍が、わしの接待としてついていた。

現に、助作殿が、

「お酒など、いかがですか」

と、聞いてくれたが、

「滅相もない」

と、わしは辞退した。

朝になると、

「この寺の庭は、なかなか宜しゅうござる。御自由に御見物なされ」

と、いったが、もちろん、立つ気がなかった。

庭先を、武者が通れば、わしは眼をつぶった。助作殿のほか、誰に何をいわれても、決して口はきくまいとまで、慎んでいた。

めずらしく青空が見えた。

陽が照ると、急に夏を覚える。若葉の隙間から、赤く濁った泥湖が見晴らされた。

城が見える。水に囲まれた悲壮な城は、ここから眺めると実に小さい。五千の人間が立籠っていられるだろうかと疑えるほど、小さなものだった。

凄まじい濁流の渦が、その小城を呑まんず勢いで大きな輪を描いている。きのうきょうの夕方から較べても、水は一尺も減ってはいないらしい。いや刻々増しているのではあるまいか。