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はくはつき
白髪鬼
江戸川 乱歩
「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页
絶好の機会だ。今お豊を捕えて白状させなければ、いつ又こんな機会が来るか分りはしない。そこでわしは、非常な危険を冒して、ある思いつきを決行することにした。薄暗い森の下蔭、廃屋の庭の丈なす雑草の中だ。わしの思いつきはきっと成功するに違いない。
わしはその時、白麻の背広に、白靴、パナマ帽という出立であったが、そのパナマをまぶかくし、大型のハンカチで鼻から下をスッポリと覆面して、例の黒眼鏡をはずした。つまり全身真白な中に、ただ両眼丈けが、パナマ帽のひさしの下にギロギロ光っているのだ。
わしはその風体で、抜足差足お豊の背後に近づいた。そして突然昔の大牟田敏清の声になって、
「お豊ではないか」
と呼びかけた。
お豊は確にわしの声を記憶していた。その証拠には、向うむきにしゃがんでいた彼女が、わしの声を聞くと、ビクッと身震いして、オズオズこちらを振向いた時の、恐怖に引歪んだ顔といったら、却ってわしの方がギョッとした程であった。
お豊が振向くと、そこには大牟田敏清の目丈けが、じっと彼女を睨みつけていたのだ。帽子と覆面で、白髪白髯を隠し、変装の部分をすっかり覆って、その代りに、これ丈けはわしの素姓をまざまざと語っている両眼丈けを現わしたのだから、お豊ならずとも一目で大牟田子爵と悟ることが出来たに相違ない。