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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

川村も瑠璃子も、幻影だと思ったに違いない。併し、幻影にしては、いつまでたっても消えぬのが少し変ではないか、しかも、その巨人の目は、決して初対面ではなかった、見ている内に、それが、嘗つて実在したある人物の目に似て来るのだ。オオそうだ。死んだ大牟田敏清の目だ。それが百千倍に拡大されて、今姦夫姦婦の前に浮上り、闇の中から彼等を睨み据えているのだ。

流石の毒婦もそれと悟ると、余りの恐ろしさに、思わず悲鳴を上げて、川村にしがみつき、川村も叫び出し相になるのをグッと噛みしめて、巨人の目を見つめたまま、腋の下と額とから、冷たい油汗を流した。

と想像するのだ。わしが見た訳ではない。見ようにも見られないではないか。なる程わしの目は千倍の大きさになって彼等の前にあったけれど、それはわしの目の影に過ぎなかった。本物のわしは、隣りの部屋に仕掛けた実物幻燈の中へ、黒眼鏡をはずした顔をさし入れて、屋外の電燈線につないだ二百燭光の電球とすれすれに、まぶしいのを我慢しながら、瞬きもせず目を見はっていたのだ。つまりお化の様な巨人の目は、わし自身の両眼を実物幻燈の仕掛けによって、客間の壁に写したものなのだ。