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はくはつき
白髪鬼
江戸川 乱歩
「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页
だが、間もなく食事は滞りなく終り、果物が運ばれ始めたので、わしは一座の不安をかき消すべく、快活に立上って、一場の歓迎の辞を述べた。
わしはただもう滅多無性に川村をほめ上げ、彼の幸運を祝し、かくの如く富裕にして趣味豊なる青年紳士を、我が社交界に迎え得たことは、衷心より愉快に耐えぬ所である。という様なことを、美辞麗句をつらねて述べ立て、更にこんなことまでつけ加えた。
「ほのかに聞く所によりますと、川村君は近く婚約者を定められ、我々に披露される日も遠くはないとの事であります。仕合せは決して一人ぼっちではやって来ません。川村君は今や二重三重と重なる幸運にめぐまれ、人生歓喜の極にあられることと存じます。しかも、その婚約の婦人は淑徳のほまれ高く、秀麗並びなき美人と承るのであります」
わしの言葉が終るや否や、人々は一斉に拍手を送り、T氏の音頭で、川村の幸福を祝する乾杯が行われた。
それをきっかけに一座が俄に賑かになった。川村は四方から冗談まじりの祝辞をあびせられて、笑みくずれていた。
これが姦婦川村の幸福の絶頂であった。運命の分水嶺であった。
さて、頂上を極めたあとは下り坂に極っている。