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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

川村は犬殺しの檻の中へ投げ込まれた野犬の様に、ギャンギャンと狂わしく泣き叫んだ。

「アア、俺はなぜ早く死ねないのだ。殺してくれ。さっきの短刀を返してくれ。ピストルでうち殺してくれ。首をしめてくれ。殺してくれエエ……」

ありとあらゆる歎願と呪咀が、絶えては続き、絶えては続き覗き穴を漏れて来た。

コンクリートの天井が、半分程下降した頃、機械係りの志村がヨロヨロと現われた。見ると、彼は死人の様に青ざめて、顔中に油汗を流している。

「旦那様、私はもう迚も勤まりません。お慈悲です。どうかお暇を下さい」

彼はハッハッと息を切らしながら、解雇を申出でた。

「恐ろしいのか」

わしは冷然として聞返した。

「ハイ、恐ろしいのです。あいつよりも私の方が死んでしまいたい位です」

「無理はない。君にまでこの上の苦痛を与えるには及ばぬ。よく勤めてくれた。では今日限り暇を上げる。これはお礼のしるしだ」

わしは予めお堂の中へ持込んで置いた、折鞄を志村に渡した。十万円の紙幣が入っているのだ。

×    ×    ×    ×

志村が立去ってから十分程経過した。一度スイッチを入れた機械は、彼がいなくても、休みなく動いている。