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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

わしは、この一縷の望みに奮い立った。今度は無見当に走り廻るのではない。壁を伝って、注意深く、穴蔵の中を一周して見ることにした。

わしはもう、ドキドキしながら、まるで富籤でも抽く様な気持で、ソロソロと歩き出した。そして、穴蔵を半周したかと思う頃、冷い金属の棒が手に触れた。

わしの嬉しさを察して下さい。あったのだ。燭台があったのだ。しかも、その上の蝋燭立てには、三本の燃え残りの蝋燭まで揃っていたではないか。

わしは夢中になって、惶しく袂に手をやった。いつもそこにマッチが入っているからだ。ところが、アア、何ということだ。神様、神様。わしはどうしてこうまで不幸なのだ。

だが考えて見れば、それに気附かず、夢中になって喜んだわしが馬鹿であった。普段着を着て棺に入っている死骸はない。わしは経帷子を着せられていた。経帷子の袂にマッチなぞが入っている道理がないのだ。

だが、みすみす、蝋燭に触っていながら、たった一本のマッチがない為に、光を見ることが出来ぬとは、あんまりむごたらしい運命ではないか。

わしは腹立しさに、重い燭台を取って、力まかせに地上へ投げつけた。

と、燭台そのものの音の外に、カチャンという軽い物音が聞えた。