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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

……アア、そうだ。海賊の紋章だ。十何年というもの、官憲の目をくらまし、支那海一帯に暴威を振っている、海賊王、朱凌谿だ。わしはそれを人にも聞き新聞でも読んで覚えていた。

さては、わしの家の墓穴が、あの有名な海賊の宝庫に使用されていたのか。不思議なこともあるものだ。併し、考えて見れば、必ずしも不思議ではないて。

いつ捕えられるか分らぬ海賊稼業には、こうした秘密の蔵が必要かも知れない。あわよくば刑期をすませて、その財宝を取出し、後生を贅沢に暮らすことも出来るのだからな。それには自国の支那よりも、日本の海岸が安全だ。しかも、墓穴の中なれば、十年に一度、二十年に一度しか人が入らぬし、入った所で、不気味な場所を、態々調べて見るものもない。アア、墓穴を宝の隠し場所とは、流石は賊を働く程の男、よくも考えついたものだ。

愈々わしの目に間違いはない。わしは生埋にされたばっかりに、巨万の富を手に入れることが出来たのだ。

わしは棺の側に蹲って、子供の様に金貨を弄んだ。金貨は皆小袋に入っていたのだが、棺の転落と共に、袋の口が破れて、一面に溢れ出したのだ。わしは丹念にそれを元の袋へ詰め込んだ。