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はくはつき
白髪鬼
江戸川 乱歩
「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页
野獣でさえもなかった。謂わば胃袋のお化けであった。不気味にも執拗なる食慾の権化であった。
どこからあの様な力が出たのであろう。わしはまるで機械の様に、順序正しく、十幾つの棺を、蓋をこじ開けては中を探り、こじ開けては探りして行った。若しや、何かの間違いで、その中に新しい死人の棺が混っていはしないかと念じながら。
だが、無論、それは空頼みに過ぎなかった。どの棺も、どの棺も、中にはカサカサにくずれ干からびた骸骨ばかりであった。
そうして、わしはとうとう、墓穴の一番奥の棺に達した。恐らくこれが、この呪わしい洞窟を考案した先祖の棺であろう。蓋を開いて見るまでもない。骸骨に極っている。わしはよっぽど開かないで置こうかと思った。併し、わしの執念は、理性を超越して、自動機械みたいに依怙地になっていた。わしは、その最後の棺さえもあばき始めた。
あとになって考えて見ると、その棺の中に眠っていた、異国風の墓地を考案した先祖の霊が、この様なむごい目を見せた詫び心に、気力の尽きたわしを励まして、その最後の棺に導いてくれたのかも知れない。
若し一つ手前の棺であきらめてしまって、最後の棺を開かなんだなら、わしはこうして、仮令牢獄の中にもせよ、今まで生き永らえていることは思いもよらなかったであろう。