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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

イヤ、それどころか、わしの命が助かったのも彼のお蔭、こうして復讐事業に着手出来たのも、彼の盗みためた財宝があったればこそだ。

仮令よそながらにもせよ、一目彼の姿を見て、この恩を謝し度いものだ。わしはそう思ったので、すぐ様公園へ行って見た。

公園は黒山の人だかりであった。見るとその群集の中に、一際目立つ大男が支那警官に縄尻を取られて、こちらへ歩いて来る。如何にも海賊の首領らしい面魂だ。関羽の絵を見る様にいかめしい頬髯を生やし、濃い眉の下にギョロギョロした目を輝かせ、口は一文字に結んで、悪びれもせず、群る見物を睨み廻している。服装は胸に紋章のついた立派な支那服であった。

彼の周囲には、賊の風采に比べて甚だ見劣りのする警官達が十数名、帯剣の柄を握って警戒している。

朱凌谿は、不敵の面魂で群衆をねめ廻しながら、悠然と歩いて来たが、ふとわしの顔を見ると、ハッとした様に足を止めて、異様に目を輝かせ、わしの本性を見破ろうとでもするかの如く、鋭くわしの顔を睨みつけた。

無論朱凌谿がわしを見知っている筈はないのに、この異様な凝視は一体何が為であるか。わしは薄気味悪くなって、その場を立去ろうと思っていると、賊はじっとわしを見つめたまま、突然太い声で、しかも流暢な日本語で叫んだ。