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がん

雁

森 鴎外

壱、弐、参「スバル 第三年九号」1911(明治44)年9月、肆、伍「スバル 第三年十号」1911(明治44)年10月、陸、漆「スバル 第三年十一号」1911(明治44)年11月、捌、玖「スバル 第三年十二号」1911(明治44)年12月、拾、拾壱「スバル 第四年二号」1912(明治45)年2月、拾弐「スバル 第四年三号」1912(明治45)年3月、拾参、拾肆「スバル 第四年四号」1912(明治45)年4月、拾伍、拾陸「スバル 第四年六号」1912(明治45)年6月、拾漆、拾捌「スバル 第四年七号」1912(明治45)年7月、拾玖「スバル 第四年九号」1912(大正1)年9月、弐拾「スバル 第五年三号」1913(大正2)年3月、弐拾壱「スバル 第五年五号」1913(大正2)年5月、弐拾弐、弐拾参、弐拾肆「雁」籾山書店1915(大正4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 73,950 字 · 147 页

青空文庫

そして彼の人の世話を焼いたり、人に親切らしい事を言ったりする言語挙動の間に、どこか慌ただしいような、稍不自然な処のあるのを認めるだろう。

もう内を飛び出してから余程時間が立ったように思って、川岸を跡へ引き返しつつ懐時計を出して見た。まだやっと十一時である。内を出てから三十分も立ってはいぬのである。

末造は又どこを当ともなしに、淡路町から神保町へ、何か急な用事でもありそうな様子をして歩いて行く。今川小路の少し手前に御茶漬と云う看板を出した家がその頃あった。二十銭ばかりでお膳を据えて、香の物に茶まで出す。末造はこの家を知っているので、午を食べに寄ろうかと思ったが、それにはまだ少し早かった。そこを通り過ぎると、右へ廻って爼橋の手前の広い町に出る。この町は今のように駿河台の下まで広々と附いていたのではない。殆ど袋町のように、今末造の来た方角へ曲がる処で終って、それから医学生が虫様突起と名づけた狭い横町が、あの山岡鉄舟の字を柱に掘り附けた社の前を通っていた。これは袋町めいた、爼橋の手前の広い町を盲腸に譬えたものである。

末造は爼橋を渡った。右側に飼鳥を売る店があって、いろいろな鳥の賑やかな囀りが聞える。