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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

……もしそれが実をむすべば、関東のかたちは一変して、幕府は足もとからたちまち瓦解の物音をあわただしく始めるに相違ございませぬ」

「むむ」

後醍醐はにっとされた。

ところで岩松党では、吉致を代表として、べつにこういう希望も寄せていた。

このままお船の帝座を、自領の阿波ノ国へお迎えしたいというのである。

もし阿波へ御動座あれば、楠木の金剛山、大塔ノ宮の吉野とも近く、京畿の宮方はふるいたつに違いない。――その供奉のためには、なお幾そうもの大船を、先ごろから出雲沖に待機させてある――という吉致の口上だった。それも忠顕から帝へ諮られた。

しかし、後醍醐には、

「その儀は、採らん」

とばかり、なんらお迷いの風でもない。

「かねてからの方針がある。浪の誘い、風の変りに、いちいち進路を惑うていたら限りがない。予定は変えまいぞ」

ともつけ加え、

「一路、伯耆へ行け」

と命ぜられた。

下弦の月の海原は、夜明けをおもわせるが、まだ夜明けには間があった。――やがて吉致の影は、侍者に別れて、仲間の速舟のうちへ戻っていた。

ついにまだ、隠岐の追手の船らしい船影にも出会わない。

おそらく隠岐ノ判官清高は、やっと今頃、島前からの急使に仰天して、追捕の船手の編成に狂奔していたのではあるまいか。