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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

たんだ両三年、お会いせぬまに」

高時のお愛想である。定房は、白い鬢をなでて、品よく笑った。

「人から悪しざまに指さされると、そのたびごとに、一すじずつ髪の毛が白うなってゆきます。……がまだ、いささか黒毛が残っておりますから、なお、科の償いが足りぬものかもしれません」

「ふうむ……」と、高時はふしぎそうに「それが、あなたのお道楽ですかな?」

「はははは。ま、そうでしょうな。風月を楽しめる世ではありませんから、道楽かといわれれば、そんなところを、生き効いとしているのかもしれませぬ」

「そして、こんどのお下向のお心は」

「さきに、しばしば、書状にこめて、定房の微衷を、お願い申しあるが」

「あ、なるほど、たびたび拝見いたしておる。あなたはさすが、文も筆蹟も、お上手だな」

定房は気がねれている。

大宮人のしなやかな辛抱づよさを笑みにもって、相手の風向きに逆らわず、嬲れば、嬲らせている世に古い老い柳のごとき姿であった。

「ハハハ、お迷ぐらしを」

と、高時の半痴な言とも、遊び合う。

老躯の、しかも大納言ともある身で、こんなさい、関東のまッただ中へ、しのび下向を踏み切って来るなど、よほどな勇気と目的でなければならぬはずだった。