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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

……が、そんなあせりは少しもない。根気よく高時の他愛ない話し相手になっていた。

とはいえ、いつかしら、定房は上手に、驕児の耳を、自分の言へも、かたむけさせていた。――支那の春秋左氏伝の史話などひいて、世間ばなしに事寄せているので――高時もはじめのほどは、おもしろげに聞いていたが、だんだん聞いてみると、

「一日も早く、隠岐の先帝を、お解き返しください。それが天下静謐の前提です。北条氏にも百年安泰の大計です。……その上で、どんな政治的な御折衝も可能ではありませんか。……この定房もまた、その上でなら、一命を賭して、後醍醐のきみをおなだめ申しあげ、きみを語ろう宮方の者どもを鎮めるために、犬馬の労もいといません。たとえ幕府の犬よとよばれ、ふた股者と罵られても、それで、世を平和に返し、民の塗炭が救えるものなら、この老骨の往生に、本望この上もありません」

と、いう意味のことを、るると説いているのであった。

高時は、はっと、定房の目的に気がついて「こやつ、なにをいうか」とばかり急に態度を硬めかけたが、そのくせ、頬にはタラと涙を垂れていた。反省でもなく、後醍醐への同情でもない。