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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

彼と阿蘇惟直とは、鎌倉の令で河内の千早攻めに参戦を命ぜられていた。で、備前の鞆ノ津までは舟行していたが、急に引っ返してしまったのである。

途上で大塔ノ宮の令旨をうけたのだ。そして、それいらい両者は阿蘇の麓でじっと雌伏していた。ところへ、つい数日前、さらに船上山からの檄に接していたのである。密詔と錦の旗とを、下賜されたのだ。

そのことは「武時申状」や「博多日記」にもあるのでまちがいはない。また下賜されたのは菊池武時だけでなく、阿蘇、少弐、大友の三家も同様であった。――探題の北条修理亮英時が全然知らないでいるはずもない。

菊池武時には、べつに、

寂阿

の法名もあり、入道姿だが、年はまだ四十三、四の壮者だった。

「行って来る」

彼の馬上姿は、あまり立派ではなかった。小づくりなうえ色が黒い。それに彼は頭巾や烏帽子を愛さない。いつも素頭である。その素頭も毎日剃るわけではないから浅ぐろく伸びていた。

「行ってらっしゃい」

彼を見送った一族大勢の中には弾んだ子供の声もまじっていた。武時には妾腹の子がたくさんあった。――肥後からこれまでの道中、探題方の眼を油断させるためかどうか、そんな幼いのも連れていたのである。