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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《血煙天明陣(ちけむりてんめいじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 頁

青空文庫

三

「ご加増あったということで」

「は、意外にもご加増にあずかり」

範之丞はつつましくいった。

「苦心惨憺いたしたあげく、復讐を首尾よくとげられたのじゃ、ご加増は至当でござろうよ」と、戸ヶ崎熊太郎も横からいった。

「範之丞も立派な男になった、そろそろ妻帯せずばなるまい」真面目に冬次郎はそういった。

「いえ、私は独身で……はい、少くとも当分のうちは……」言下に範之丞は答えたが、それは善にしろ悪にしろ、あれほど自分に尽くしてくれ、そのあげく非業に死んだところの、お吉のことが心に深く、今に残っているからであった。

(可哀そうに、お吉お吉!)範之丞の眼には涙があった。

「貝十郎一局囲もうか」

「結構にござりますな」

二人の間に碁盤が置かれた。

パチリパチリと石の音がした。

「貝十郎この頃は何が美味いかな」

「伊勢海老、鮪、鴨、蓮根、葱など美味しゅうござりまする」

「肉には飽きた、野菜が食いたい。蓮根、葱など精々たべよう」

「菜食は猛気殺伐の気を、押さえるそうにござります」

「お前はどうだ、貝十郎?」

「野菜と肉類とを取り雑えまして、頂戴するつもりにござります」

「中道を行くのか、お前らしいの」