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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《血煙天明陣(ちけむりてんめいじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 頁

青空文庫

六

そこへわしがやって来た。と、扈従して来た貝十郎め、才負けして思えらく、冬次郎ほどの人間が、何んの暢気な遊山旅などに、このようなところへ来ることがあろう、田沼様討たんために来たのであろうと。……そこでさっきやって来たのさ。一つにはわしの様子をうかがい、一つにはわしを拝み倒し、田沼への誅伐を緩和させようとな。……アッハハ藪蛇だったよ。あんなことさえいって来ずば、この地に田沼いようなどと、何んのわしが思うものか」

例によっての懐手、冬次郎は悠々と懐手をしながら、会心そうに薄笑った。

「とかくわしの裏を掻いて、計画齟齬させ後手へ後手へと廻す、小面憎いが好敵手でもある彼奴を、今度こそはどうやら取り詰めたらしいぞ。それもさ自分のかけた係蹄へ、自分の方から引っかかってな」

「殿」

としかし熊太郎は云った。

「落ち目になったと申しましても、まだ権勢の田沼意次、それに公職を空しゅうして、このようなところへ潜行する――あり得べきことでござりましょうか?」

「うむ」

と冬次郎は頷いた。

「疑問一応はもっともじゃ。が、ないとはいわれない。将軍家でさえあのとおりではないか」

「うえさまさえあのとおりと仰せられまするは?」