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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《血煙天明陣(ちけむりてんめいじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 頁

青空文庫

三

やっと清三郎は胸に落ちた。

「何者かにさらわれたと申しますことで……」

「何んでもあの駕籠にはいっていたものは、松本伊豆守殿お宅から、田沼殿へ贈る進物だったそうだ」

「私もそのように承りました」

「お勝手箪笥から献上箱、それから今度は進物駕籠と、いやいろいろの名称をつけて、送る方でもよく送るが、取る方でもよく取るのう」

「それもご時世でございましょう」

「賄賂と、請託と、身贔屓と、ころび芸者と、山師、運上……これが目下の流行だのう」

「それにしても大胆な、何者が田沼殿への進物駕籠などを、襲って奪ったのでござりましょう?」

「さあ、そいつは解らぬが、こうした腐敗した時世には、ああした思い切った荒療治をやる、英雄的人物が出るものさ」

「両極端でございますな」

三

「うんそうだ両極端だ。得てして血の気の多い奴は、こういう時代にはどっちかの端へ、とっ走って行くものさ。……それはとにかくわしとしては、昨夜隅田で駕籠を奪った手合いの、大将ともいうべき黒頭巾の武士に、逢ってみたいものとこう思うのだよ」

熊太郎はこういうと太い濃い眉、段のない高い素直の鼻、大きくはあるが厚くない唇、左の眼尻へ黒子を持った、切れ長でしかも大きくて、二重眼瞼の一種の鳳眼――そういう顔へ微笑を漂わせた。