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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

線上閱讀佐々木 味津三《旗本退屈男(はたもとたいくつおとこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 240,656 字 · 478 頁

青空文庫

声と共に色めき立って姿を見せたのは、妹の菊路です。

「何じゃ。また菓子折か」

「あい。これでござります」

差出したのを見眺めると同時に、主水之介も京弥も等しくぎょッとなりました。

「御前様へ。吉原三ツ扇屋抱え、誰袖」

表には、紛れもないあの心中の片われの女の名前が、はっきりと書きしるされてあったからです。

「よくよく不気味なことばかりよのう。取次いだは菊か。そちであったか」

「あい。やさしゅうちいさな声で、ご免下さりませと訪のうた者がござりましたゆえ、出てまいりましたら、式台際に顔の真ッ白い――」

「女か」

「いいえ、女のような男でござります。それも若い町人でござりました。その者がいきなり黙ってこの品を出しまして、殿様に――お兄様によろしゅうと、たったひとこと申したまま、何が怕いのやら、消えるように急いで立ち去りましてござります」

「何から何まで解せぬことばかりじゃ。幽霊なぞがあるべき筈はない。いいや、あッたにしても傷の主水之介、冥土から菓子折なぞ受ける覚えはない。まだそこらあたりに姿があるであろう。京弥、追いかけてみい」

「心得ました。菊どの! 鉄扇々々」

万一の場合を考えて手馴れの鉄扇片手にすると、紫紺絖小姓袴の裾取って、まっしぐらに追いかけました。