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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

線上閱讀佐々木 味津三《旗本退屈男(はたもとたいくつおとこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 240,656 字 · 478 頁

青空文庫

と駕籠がとまって、倉皇としながら道中駕籠の中から降り立ったのは、一見して大藩の太守と覚しき主侯です。しかも主侯自ら腰を低めて恐懼措く能わないといったように、倉皇としながら小走りに、近よると、釣りの御前の遙かうしろに膝をこごめて、最上級の敬語と共に呼びかけました。

「源七郎君におわしまするか。土州にござります。いつもながら御健勝に渡らせられまして、恐悦に存じまする……」

「おお、土佐侯でござったか。いや、恐縮じゃ恐縮じゃ――」

主侯は誰でもない南海土佐二十二万石の太守山内侯でした。だが、どうやら土佐侯は、そのお見込も上乗、道中神妙番付面に於ても上位の方にあるらしく、ぐずり松平の御前至って御機嫌であったのは、むしろ心よい位です。

「御身がこん日、御道中とは一向に心得ざった。お構いなく、お構いなく――」

「有難い御言葉、却って痛み入りましてござりまする。いつもながらの御清興、お羨ましき儀にござります」

「いや、なになに、それ程でもない。近頃年を取ったか、とんと気が短うなって喃。禅の修行代りにと、かようないたずらを始めたのじゃ。時に江戸も御繁昌かな」

「はっ、近年はまた殊のほかの御繁昌にて、それもみな上様の御代御泰平のみしるし、恐れながら土州めも、わがことのように喜ばしゅう存じあげておりまする儀にござります。