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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
彼女は身ままなのである。
また、すっかり帝の寵に甘えぬいた彼女にもなっていた。換言すれば、後醍醐がそう仕向けたといえなくもない。いずれにせよ、黒木の御所へ最後の夜まで通っていたのは、三人の典侍中、ひとり小宰相だけだった。
「……みかど」
更ける夜を、彼女は惜しむように、沁み沁み言った。
「こよい限りでございますのね。こうして、みかどに侍いていられますのも」
「大事はあすの夜だ。そなたは身おも。ここを出る折、他の者におくれるなよ」
「ですが」
彼女の案じるところと、後醍醐の案じるところとは、女と男の距離ほどもちがっていた。
「……島にいればこそですが、ふたたび都にお還りの後は、もうこんなにはしていただけないのではございませぬかしら」
「では、そなたは島にいたいのか」
「ええ、みかどとならば」
帝はぎょっとされた。
女人を御すむずかしさは、男の最もやッかいな至難事と聞いていた他人事を、いまはお身にさとって。
「そんなことはない」――かろくうけ流し「よしや幸いに、本土の彼岸へつくことができても、まだまだ、都へ坐るまでには容易でない。転々と戦場暮しがつづくであろう。そなたこそ、その身おもで耐えられるか」