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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

「えっ。……?」

「後日をまたず、島後のお館へもすぐ知らせろ。能登はみかどへ降伏して地方(本土)へお供し去っておざると。そして判官殿にも、旗をお持ち変えなされと、おれが言っていたとつたえるがいい」

うしろに山を負っている星明りの暗い漁港だった。

知夫の港である。

湾はその内そとに、小れ島の島影をいくつも重ね、夜凪のゆるい波が浦曲形に白かった。そしてさっきから渚に待機していた人影もみな黙りこくって、遠くへ面をむけあっていた。

「オ、やっと参られたらしい」

「お見えか」

「あれにちがいない」

近づく櫓音につれて四、五そうの小舟の影も見えてきた。するとそこの人影はみな黒い藻の山みたいに下へ平伏した。

ほどなく、近くに着いた小舟から、幾つもの人影が次々に浜へこぼれた。わずかな時間だが長かった。すぐ声なき列が波打ちぎわをあるいて来る。

人影の一つは、まぎれもない後醍醐だった。

すこし離れて、三名の妃。

つづいて、二人の侍者も供奉にみえる。

嚮導に立って、帝のさきを歩いて行った髪の真っ白な島武士は、小迎の住人近藤一族のあるじなのだ。老人は一代の晴れに感奮してでもいるようなかたい表情であった。