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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
が、どうしたのだろう。うちの一人がとつぜん断崖の肌から宙へ弾き飛ばされたせつなに、あたりは暗い砂塵にけむっていた。ど、ど、ど……と大石のなだれを感じたのは耳からでなく無意識に抱きついていた山肌からのものだった。
「…………」
公綱が眼をひらいてみると、もう自分の上には一人の味方もいなかった。彼は自分の笠となっていた岩盤の一つへ手をかけ、その上に躍り立った。そして味方も見ろ、敵も聞けとばかり、わが剛胆をほこって言った。
「楠木はどこにいる。なぜ正成は姿を見せぬ。これは去年、渡辺橋から四天王寺へかけて楠木を取り逃がした宇都宮公綱だ。東国一の剛公綱があらためて見参を申しいれる。卑怯者と笑われたくなくば、名のりあえ。一騎と一騎の勝負をいたせ」
すると、どっと笑う声がとりでのうちにわいた。彼の古風な武者名のりが、孤塁の兵にはなにか場違いな平和の歌の文句みたいに聞えたのかもしれなかった。たちまち一本の、いや幾すじものふとい麻縄が上から彼のすがたへむかって投げられ、
「珍重、珍重」
また、ほかの諸声で、
「いざ登られよ」
「登って来い、公綱」
と、言い騒いだ。
公綱はその一つを引っぱッてみた。