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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

おかしいと感じ出したのは、もう庭ではなく、滑川を渡って町屋根も見えていたからだった。

「師直。邸内の庭座敷などではなかったのか」

「いやまあ、お庭内も同様な閑静な所でおざる。陰気なお屋敷では、せっかく、お気散じにはなるまいと存じましてな」

「陰気なと申されたが、しかし御家中の服喪は、すでに明けておるはず。しかるに、なぜ今年も足利家では、門松をお立てなさらんのか」

「お気づきでしたか」

師直は先に立って、いつか清洒な木の間の露地へ曲がっていた。おくに家があるのか、きれいに箒目が立っている。

「ちとお答えに窮しますな。……いや何、関うまい。じつは主人高氏には、何やら結願のあるらしくて、それの叶うまでは、門松を立てぬと、大殿のお位牌へ、去年の陣中でお誓いになったものとか聞いておる」

「ははあ。正月にも正月をせぬと、御先代の霊へお誓いとは、何かよほどな願望でおわそうな。ひとつ訊いてみたいものだが」

「次第によっては」

と、師直は色気をもたせながら、そのとき小腰をかがめていた。

「さあ、どうぞお先へ――」

見ると武家の別邸らしくもない。紗綾形編みの篠垣に、柳を抱いた女性的な門づくり。