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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

――とはいえ、そのあぶない酒戦は、見ているだけでも気がちぢまった。夜もふけたし、無事なうちにと、相互の家臣は、引き分ける潮どきばかりうかがっていた。――で、ほどなく道誉は、腹心たちにささえられながら、蹣跚たる足どりで、茶堂から本丸のほうへひきあげて行ったのだった。そしてまた高氏も、設けられたべつの寝所へと、しきりに、うながされていたが、

「いや、おっくうだ。ここでいい、ここで」

とばかり、彼は、茶堂の書棚の数冊を取ってそれを枕に、大の字なりに眠ってしまった。

ぜひなく家臣たちは、夜の具を着せかけて、そっと杯盤をとりかたづけ、やがてみな、疎林の外で、夜営の支度にかかっていた。そして、そうした外の物音も寂とひそまり返った頃である。高氏はふと、眼をひらいてみた。むずむずと、袂の内から取出したものを、枕元の一穂の灯にかざしながら、横になったままで、飽くなく見入っていたのであった。

殿へ

と、封の上に、藤夜叉の筆がいかにも幼い。

さっき、まだ杯盤もちらかっていたうちに、桃井から師直の手をとおして、そっと彼に渡されていたのであった。

封は切るまい

と、しているらしかったが、殿へ、としてあるたった二字にさえ、その拙さには、そのまま藤夜叉の生い立ちやらすがたが見えるようだった。