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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

線上閱讀佐々木 味津三《旗本退屈男(はたもとたいくつおとこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 240,656 字 · 478 頁

青空文庫

真ッ青になると、梅甫が突然実に意外なことを言ってふるえ出しました。

「あ、兄が、十、十五郎が、深川なぞへ行かれる筈がござりませぬ。兄はほんの今しがた血を浴びて、ふわふわとここへ来たばかりでござります」

「なに!」

「うそではござりませぬ。それも二度、つい今しがたふわふわとその庭先へ来たばかりなんです。髪をみだして、血を浴びて、しょんぼりとそこの暗い庭先へ立って、にらめつけておりましたんで、どうしたんですとおどろいて声をかけたら、俺は喧嘩で斬られて死んだ、気になることが一ツあって行かれるところへも行かれないから、小芳に言いに来たんだ。この屋敷には生き埋めの井戸があってよくない、住んだのが因果だ、祟りがあるから夫婦別れをしろ、別れないと兄は恨むぞ、斬られたのもみんなおまえらのせいだ、兄が可哀そうなら今別れろ、別れないと何度でも迷って来てやるから、と二度が二度うらめしそうに言って、ふわふわと庭の向うの闇の中へ消えましたんで、ふたりがこの通りふるえていたところなんです……」

不思議きわまる言葉でした。

下総十五郎にふたりある筈はない。深川へ来た十五郎が嘘の十五郎か、こっちへ現れた十五郎が本当の十五郎か、どっちかの十五郎が怪しむべき十五郎なのです。