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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
……といって、じたばた噪がれては」
そこからは、這うように行き、やがて黒木の御所のうちをそっと窺った。奥の御簾蔭には人影なく、ただ一点の小さい灯だけが白かった。
能登は、狐のようにキョトついた。根気よく、帝座の灯のあたりをうかがいながら、
「はてな」
と、もう幾足かを忍ばせて行った。
帝がいつも寝所としている北廂のぬれ縁の方へである。そこの雨戸へひたと片耳を寄せたのであった。すると、
「――下郎っ」
ふいな一喝は、彼が精を集中していた内とは逆な方から聞えて来た。しかも音吐のいろは、後醍醐のそれにちがいなく、
「なにしておる!」
と、能登の狼狽をどこかで見ているような落着いた言い方でもある。
能登は、後ろへ跳んだ。――驚きの余りにではあるが――つい大太刀のこじりを刎ね上げての動作だった。それはすでに刺客の自白にほかならない身構えというしかない。
「おうっ。そこにおいでか」
急に地へ片膝をついて見せたものの、はや言いくるめようはないと覚って、彼は、すてばちな気になった。満身に描かれた殺気を隠そうとはしていない。
が、帝の影はさりげなかった。
「あいにく、月はないが」