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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

そして暗がりの面々が、その火の手があがるのを待っていた折であったなどとは、あとからやっと覚りえたことだった。わかったときは、能登も、もうどうしようもなかったのだ。

その能登は、十数人の宮方武士にとりかこまれて、

「歩け」

と、さきに後醍醐が急いだ方へあとから追い立てられていた。

宮方の面々は、すべて抜刀していたが、能登は丸腰だった。小刀までも取り上げられていたのである。

「止まれ」

四、五町来ると、一人が言い、ほかの白刃も、能登をかこんだまま後の方を振り向いた。

「ちと早すぎたな」

「む、余りこちらは順調すぎた」

「万一があるといけない。お妃方の来るのを待とう」

待つほどもないうちだった。

彼方から一トかたまりの人影がこっちへさして駈けてくるのがみえる。中で一人の典侍は、一人の武士の背なかに負われていた。

問うまでもなく分っていたが、あえて一同で、

「何者だ」

と、声をかける。

すると、眼の前へ来た一群の方でも、その声に応じて、

「妃のおひとり、権大ノ局」

と、こたえた。

「よしっ、そのまま急げ」

と同勢は、元の位置についたままで、この一ト組を先の道へ見送った。