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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
吉野城落つ
という悲報は、しばしば、寄手方の宣伝につかわれていた。
敵はそれの矢文を、孤塁の兵に射込み、それには、
「ここの城も命旦夕」
「たれのために死ぬのか」
「家郷の妻子は泣いていよう」
「降伏してこい」
「降兵には、充分な食を給与し、それぞれ、元の郷里へ帰してやるぞ」
など、さまざまな文句で誘っていた。
けれど千早からは、ほとんど一兵の降人も出なかった。脱走するほどな者はとうにふるい落されていたのである。それに“吉野落つ”と聞えても、味方による確報ではなく、吉野からの落人はまだ一人も、ここへはたどりついていなかった。
それも当然で、裏金剛から葛城の間道すべて遮断されている実状なのだ。――そんな中をも忍ノ大蔵なればこそ、首尾よくここまで来られたものといえよう。
以下は。
大蔵の報告である。正成、正季も、吉野方面のことをその陣にいた者からじかに聞くのは初めてだった。
× ×
大塔ノ宮の名は、敵にも味方にも、なにか雲表の震雷みたいな畏怖と神秘感をもたれ、そのうごきには関東方など、神経質にまでなっている。
おととし、笠置のあといらい。