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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

「こんどはちがうぞ。いままでにない大戦の様相だ」

とは、いわず語らず、たれの眉をも、悲壮にしていた。――で、生きて還れぬからには、と動員をうけた兵の端までが、思いきりな欲望を花街に放逸してゆくのもぜひないことで、世相全般からいえば、ほんの一面の風でしかない。

もっと奇形なのは、征途に去る者、残る者の悲壮もよそに、折々鎌倉の夜の闇を、妖しくゆする鉦の音だった。しかも何百人が、幾組にもなって、鉦叩き踊りに狂う念仏の諸声なのだ。――去年あたりからにわかに猖獗をみせてきた例の踊る宗教――時宗の阿弥仲間へはいるものが、おそろしい勢いでふえつつある。

その鉦を、どう聞いてか。

諸家に飼われている闘犬や、鳥合ヶ原のお犬小屋の犬どもは、ここへ来て夜も昼も、けんけんと異様な啼き声を世間にこだまさせていた。

「むりもないよ」

と、犬ずきは、気にもしないのである。

「なにしろ、ここのとこ、しばらくは高時公の闘犬の御上覧もないからね」と。

道誉の私邸、佐々木の門は、鳥合ヶ原から遠くない。

彼はこの正月を、寝たっきりであった。いや年暮からのことである。

高ノ師直に、いっぱい食ったあの帰途だった。